- 痩せたらいびきが治ったと聞くけど本当?
- いびきと肥満度には密接な関係があるの?
このような疑問をお持ちの方も少なくないでしょう。
実はいびきの最大の原因は肥満と考えられており、肥満度が上がれば上がるほどいびきをかくリスクも高まることが知られています。
そこで、この記事では痩せたらいびきが治る根拠やメカニズム、実際の体験談、痩せてもいびきの改善しない事例などを詳しく解説します。
この記事を読むことで肥満といびきの関係性を理解でき、いびき改善のための第一歩を踏み出すきっかけにもなるため、ぜひ参考にしてください。

2009年に群馬大学医学部医学科を卒業以降、関東圏の循環器病院で勤務。現在は、Myクリニック本多内科医院の院長を務める。担当は内科・循環器内科。いびき、睡眠時無呼吸症候群のプロとして日々臨床に取り組む。累計、300人以上のいびき、睡眠時無呼吸症候群の患者を担当。
一般社団法人 いびき無呼吸改善協会
なぜ「痩せたらいびきが治った」と言われるのか?医学的な根拠とは
「痩せたらいびきが治った」「太ってからいびきの程度が悪化した」
よくこのような声を耳にしますが、実際に肥満といびきには密接な関係があると考えられています。ここでは、その根拠を主に下記の2つのテーマに沿って解説します。
肥満といびきの関係
睡眠中、空気が気道を通過する際の振動音がいびきであり、気道が狭くなればなるほど、振動音が大きくなり、いびきをかきやすくなります。
いびきの原因は気道の狭窄であり、気道が狭窄する原因は多岐に渡りますが、中でも最大の原因は肥満であると言われており、肥満の方は特に注意が必要です。
大学大学院医学系研究科公衆衛生学の教授である磯の報告によれば、日本人男性2,350人、日本人女性4,163人のいびきの頻度とBMI(肥満度を表す指数で体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)にて算出される)の関係を調査したところ、いびきの頻度が高い人ほど、BMIも高いことが示されています。(参考文献:厚生労働科学研究成果データベース)
さらに、高度な気道狭窄によって低呼吸や無呼吸の頻度が増加する「睡眠時無呼吸症候群」の発症率も、BMIが25〜28kg/m2の方では25%、つまり4人に1人が発症すると報告されており、BMIが高ければ高いほど睡眠時無呼吸症候群の発症率も増加するため、肥満といびきには密接な関係があることがわかります。(参考文献:PMC)
特に、BMIが25を超える「肥満1度」からいびきのリスクが高まっていくため、自身のBMIを計算して25以上の方は特に注意が必要です。
首まわりの脂肪と気道の圧迫メカニズム
では、なぜBMIが高いといびきをかきやすくなるのでしょうか?
気道周囲はさまざまな筋肉、組織、脂肪などで覆われており、これらの構造に変化をきたすだけでも容易に気道は狭窄します。
肥満者の場合は首まわりに脂肪が沈着し、それによって舌が後方に押し出されることで、舌後方に位置する気道が狭窄することでいびきをかきやすくなるわけです。
また、高度肥満の場合は首まわりだけでなく、舌そのものにも脂肪が沈着し、後方に落ち込みやすくなることでいびきをかきやすくなります。
首まわりまたは襟のサイズが男性の場合は43cm(17インチ)以上、女性の場合は41 cm(16インチ)以上で睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが増大することが知られており、気になる方は自身で測定してみると良いでしょう。(参考文献:MedlinePlus)
特に男性は女性と比較して首まわりに脂肪がつきやすいことが知られており、それに伴ういびきをかきやすいため、注意が必要です。
実際に「痩せたらいびきが治った」人の体験談
睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドラインにおいても、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある全ての人において、生活習慣の是正を勧めています。中でも肥満を認める人においては減量療法を推奨しており、いびき解消のためにはダイエットが重要です。
ここでは、実際に「痩せたらいびきが治った」人の体験談を4つ紹介します。
50代男性:日中に強い眠気を自覚したケース
50代男性のAさんは元々そこまで肥満ではありませんでしたが、ここ数年で体重が10kg近く増えて肥満体型になってしまったそうです。
独居であったためいびきを自覚する機会はなかったものの、日中に強い眠気を自覚する機会が増加し、ネットで検索したところ、睡眠時無呼吸症候群の可能性があることを知りました。
そこで、自身のスマホで睡眠中のいびきを録音したところ、その音の大きさに驚き、再び対策方法をネットで検索したところ、肥満が原因として最も考えられることを知りました。
いびきや眠気改善のためにダイエットを始め、平日はできる限りサラダやタンパク質の豊富な食事を摂取し、休日は必ず30分以上のジョギングを行うようにしたところ、半年で10kgほどの減量に成功し、元の体型に戻ったそうです。
体重減少とともに録音したいびきも改善を認め、さらには日中の眠気に悩まされる機会も減少したため、仕事や私生活にメリハリがつくようになったそうです。
70代男性:健診で肥満を指摘されたケース
70代男性のCさんは、会社を定年退職して以降、これまでの多忙な生活から一転して時間に余裕ができ、家から外出しなくなってしまいました。また、一緒に暮らす妻からは「いびきがうるさくて一緒に寝るのが辛い」と愚痴を言われ始めていたそうです。
とある日、市の健診を受診すると過去1年で体重が10kgも増加していることを指摘され、医師にいびきの話をしたところ、肥満が原因である可能性が高いことを知ったことから、いびき改善のためにダイエットを決意したそうです。
会社員時代から現在に至るまで食生活には気を遣っていたため、食事内容や食習慣は優秀でしたが、定年後は身体活動量が顕著に低下していたため、最低でも1日30分以上のウォーキングを週に3日以上は行うようにしました。
また、時間がある日は市の健康センターで1時間水泳を行う日も月に2日程度は作り、できるだけ運動する機会を増やしたそうです。
その結果、半年間で5kgの減量に成功し、体重の低下とともに妻からいびきを指摘される機会も減っていったそうです。
30代女性:妊娠を契機にいびきを指摘されたケース
30代女性のDさんは、妊娠を契機に体重が増加し、また食欲が亢進していたこともあり、妊娠前から比較して15kgほど体重が増加してしまったそうです。
体重増加に伴い、旦那からいびきを指摘されたものの、出産すれば改善すると考えて特に対策しませんでしたが、出産後半年以上経過しても妊娠前の体重から7kgほど増量しており、いびきも改善を認めませんでした。
産婦人科医に相談したところ、いびきは体重増加の影響が大きいと指摘されたため、いびき改善のためにもダイエットを決意したそうです。
妊娠してから完全に運動する機会を失っていたため、室内でも行えるようにマット上での筋力トレーニングやヨガを行い、好き放題食べていた食事もカロリーを考慮して摂取するように変えていったそうです。
その結果、ダイエット開始から3ヶ月で妊娠前の体重に戻り、同時にいびきも改善したことで夫からも「寝息が静かになったね」と言われるようになり、赤ちゃんとも安心して一緒に寝れるようになったようです。
「痩せたらいびきが治った」はどれくらいの体重減少で効果が出る?
ここまで述べた通り、いびきと肥満には密接な関わりがある一方で、いびき改善のためにダイエットしようと思う方の中には、「どれくらい痩せれば改善するの?」と疑問を持たれる方も少なくないでしょう。
ここでは、体重といびきの関係について、主に下記の2つのテーマに沿って解説します。
5kg・10kgの減量で変わる?
結論から言えば、いびきは5kg・10kgの減量でも改善する可能性があります。減量によって首まわりの脂肪が減れば、気道の狭窄が解消される可能性が高いためです。
実際に、ウィスコンシン州の就労者690名を対象に、体重の変化とAHI(睡眠時無呼吸症候群の程度を示す指数で、1時間あたりの低呼吸・無呼吸の合計回数)を評価した研究では、体重が10%増加すると、AHIが約32%増加し、体重が10%減少すると、AHIが26%減少するという結果が得られており、BMIの変動によって低呼吸や無呼吸が改善もしくは増悪するという結果が得られています。
この研究の被験者の平均体重は80kg台であったため、その10%、つまりは8kgの減量においても症状の改善が見られたことになります。
一方で、減量すれば必ずしも症状が改善するかというと、一概にそうとは言えません。いびきの原因が肥満以外の原因の場合、たとえ減量を行ったとしても気道の狭窄が解消されず、思ったような改善が得られない可能性があるため、いびきの原因が何かをしっかり把握することが治療する上で肝要です。
BMI・体脂肪率といびきの相関
先述したように、BMIといびきには相関関係が認められ、BMIが高いほど、いびきの頻度も高くなることが知られています。
一方で、体脂肪率といびきの相関関係も気になるところです。そもそも、BMIが体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出される肥満度を表す指数であるのに対し、体脂肪率とは体重に占める体脂肪の割合であり、男性であれば10〜20%、女性であれば20〜30%程度が正常です。
仮にBMIが高くても、体脂肪率が低い人の場合、筋肉によって体重が重いだけで脂肪は少なく、気道は狭窄していない可能性もありますが、体脂肪率も高くてBMIも高い人の場合、体重が重い原因は脂肪であり、よりいびきのリスクが高い状態といえます。
また、BMIは正常でも体脂肪率が上限以上の場合、いわゆる「かくれ肥満」の状態であり、内臓脂肪が蓄積しているため、見た目上は首が太くなくても、内部で狭窄を起こしている可能性あり、注意が必要です。
「痩せたらいびきが治った」は本当?治らなかったケースとその原因
ここまで、痩せたらいびきが治る根拠やメカニズム、実際の体験談などを紹介してきましたが、中には痩せてもいびきが思ったように改善しないケースも認めます。
ここでは、痩せてもいびきが治らないケースとその原因を2つ紹介します。
痩せても治らない原因は他にもある
痩せてもいびきが治らない場合、いびきの原因は肥満以外にある可能性が高いです。
いびきの原因として最も多いのは肥満ですが、それ以外にもさまざまな原因で気道は狭窄し、いびきを引き起こします。肥満以外に、主に下記のような原因が挙げられます。
- 就寝直前の暴飲暴食
- アルコール摂取や過剰な喫煙
- 睡眠薬などの摂取
- 不適切な寝具の使用
- ストレスや疲れ
- 顎が小さい
- 舌が大きい
- 耳鼻科疾患の発症
- 脳神経疾患の発症
中でも、暴飲暴食やアルコール・喫煙、不適切な寝具の使用などは、意識さえできれば十分セルフケアで改善可能です。
一方で、もともと生まれつき顎が小さい場合や舌が大きいなどの解剖学的問題や、何らかの耳鼻科疾患・脳神経疾患を発症している場合、セルフケアでの改善は困難な可能性が高く、医療機関で専門的な治療を受ける必要があるため、注意が必要です。
ダイエットしてもいびきが改善しない場合、それ以外の可能性も考慮して生活習慣や寝具の見直し、もしくは他の病気の発症の可能性を検討すると良いでしょう。
睡眠時無呼吸症候群や鼻炎の影響
痩せてもいびきが治らない場合、上記のような原因の他に、睡眠時無呼吸症候群の発症や鼻炎などの耳鼻科疾患を発症している可能性が高いです。
例えば、鼻炎や鼻茸、鼻中隔湾曲症の場合は鼻が詰まってしまい、本来行うべき鼻呼吸より口呼吸が優先されることで、下顎の後下方への移動とともに舌が後方の気道を圧排することでいびきを引き起こします。
また、睡眠時無呼吸症候群の原因が肥満以外の場合は、やはりダイエットだけではいびきを改善できません。
睡眠時無呼吸症候群は短期的には睡眠の質の低下や日中の眠気の増加、集中力の低下などの症状を引き起こしますが、長期的には持続的な低酸素のストレスによって交感神経が過剰に活性化し、高血圧や糖尿病、脳血管障害や心不全などの心疾患の発症リスクが増大することが知られています。
そのため、肥満以外の原因をしっかりと突き止め、適切な治療を早期から行っていくことが重要です。
【まとめ】まずはセルフチェックで「いびき」の危険度を把握しておこう
この記事では、「痩せたらいびきが治った」という人の実体験やその根拠・メカニズムについて詳しく紹介しました。肥満はいびきの最大の原因であり、BMIの増加に伴いいびきの程度も悪化していくことが知られています。
一方で、必ずしもBMIが低いからいびきをかかないというわけではなく、生活習慣やストレス、気道周囲に影響を及ぼす疾患の発症など、肥満以外のさまざまな要因でもいびきが生じるため、注意が必要です。
逆にBMIが高い場合も、その要因が筋肉質なのか脂肪が多いのかによって気道への影響も異なるため、BMIはあくまで参考値であり、いびきの大きさや程度、いびきによって自身の身体に生じている異変や症状の有無など、総合的に自身のいびきの危険度を判断することが重要です。
下記の記事ではいびきの危険度をセルフチェックする方法を詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。

コメント