
いびきの原因とは?男女別の違い

いびきとは睡眠中に気道が狭窄し、呼吸によって空気が狭い気道を通る際の振動音のことです。
国内の報告では男性で24%、女性で10%の方にいびきを認め、男性に多いとされています。この背景には、男性の方がさまざまな要因で気道が狭窄しやすいことが挙げられます。
下記では、いびきの原因を男女別で紹介します。
男性のいびきの原因

男性の方が女性よりもいびきが多いとされる主な原因は、解剖学的に男性の方が女性よりも睡眠時に気道が狭窄しやすいためです。解剖学的に狭いことでより空気が振動しやすくなり、大きないびきをかいてしまいます。
下記では、男性のいびきの原因を5つ紹介します。
気道が長く、下が大きい
男性は気道が長く舌が大きいため、いびきをかきやすいです。
気道とは鼻や口から取り込んだ空気が肺に至るまでの経路を指し、舌の後方のスペースも気道の1つです。睡眠中は舌の筋肉が弛緩するため、舌が後方の気道に落ち込み、より気道が狭くなりやすくなります。
特に男性は女性と比べて舌が大きいため、より後方の気道が狭窄しやすく、睡眠中にいびきをかきやすくなります。
また、門歯から気管分岐部までの長さは、成人男性で約25~26cm、成人女性で約21~23cmであり、構造上気道の長い男性の方が気道が狭窄しやすく、いびきをかきやすいです。
頚部の筋肉が太く頑丈
男性は女性と比較して頚部の筋肉が太く頑丈なため、いびきをかきやすい傾向にあります。
咽頭部や喉頭部周囲は複数の筋肉に囲まれており、男性の場合はこれらの筋肉が女性よりも太く発達しているため、解剖学的に気道が狭くなりやすいです。
また、睡眠中は覚醒時よりも筋肉が弛緩してしまうため、周囲をより多くの筋肉で囲われた男性の方が筋肉の弛緩に伴って気道が圧排されやすく、いびきをかきやすくなります。
頸部に脂肪が沈着しやすい
男性の場合、女性よりも頸部に脂肪が沈着しやすく、いびきをかきやすいです。
男性と女性では脂肪の沈着しやすい部位が異なり、男性の場合は腹部・胸部・頸部・内股に沈着しやすく、女性の場合は下腹部・大腿部・臀部・腰部などに脂肪が沈着しやすいです。
頸部に脂肪が沈着する場合、覚醒中は気道周囲の筋肉が収縮することで気道の構造を保っていますが、睡眠中に頸部周囲の筋肉が弛緩すると、その上に乗っかっている脂肪が重しとなり、気道が圧排されます。
そのため、特に頸部周囲に脂肪が多く沈着している男性はいびきをかきやすく、注意が必要です。
男性の方が仰向けで寝やすい
男性は女性と比較して睡眠中仰向けになることが多く、いびきをかきやすいです。
睡眠中の体位は仰向け・うつ伏せ・横向きなどさまざまですが、舌の後方に気道が位置していることからも、仰向けがもっとも気道を狭窄しやすく、逆にうつ伏せや横向きは舌が気道に干渉しにくく、いびきをかきにくくなります。
奈良女子大学 久保氏等の報告によれば、青年男女における睡眠時の仰向けの割合は男性で59%、女性で46%と、男性の方が仰向けで寝る人の割合が多いという結果でした。
以上のことからも、より気道の閉塞しやすい仰向けで寝る人の割合が多い男性の方が、いびきをかきやすいと言えます。
飲酒・喫煙率が高い
飲酒や喫煙によっていびきをかきやすくなるため、注意が必要です。
アルコールには血管拡張作用があり、また飲酒によって多量の水分を摂取するため、吸収された水分は血管内から血管外の組織に漏出し、その結果むくみが生じます。
また、タバコに含まれるニコチンなどの化学物質は気道に炎症を引き起こすため、やはり血管拡張が生じてむくみやすくなります。
気道周囲の組織にもむくみが生じるため、結果として気道が狭くなりいびきをかきやすくなるわけです。
飲酒率・喫煙率はともに男性の方が女性よりも有意に高く、特に男性の場合は就寝直前までの飲酒・喫煙によっていびきをかきやすくなるため、注意が必要です。

女性のいびきの原因

先述したように、女性は一般的に男性よりもいびきをかきにくいとされていますが、中には男性とは異なる理由でいびきをかきやすい女性もいます。
下記では、女性のいびきの原因を3つ紹介します。
小顎
女性は男性よりも顎が小さいため、いびきを起こしやすいです。
顎が小さいのにも関わらず、舌の大きさにそこまで大きな違いはないため、より舌後方の気道が狭窄しやすくなり、いびきをかきやすくなります。
女性が男性よりも顎が小さい要因としては、遺伝や発育、筋肉量の少なさなどが挙げられます。
また近年では、柔らかい食べ物を摂取する機会の増加によって顎の発達が不十分な女性が増えていたり、美容整形手術で顎を小さくした結果、気道が狭窄してしまう女性が増加傾向です。
顎が小さいと美容的にはメリットが大きいですが、一方でいびきリスクが高まる点は注意が必要です。
更年期による女性ホルモン量の低下
女性ホルモンの分泌量が低下することでいびきが生じやすくなります。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2種類あり、このうちプロゲステロンには呼吸中枢に対する呼吸促進作用や、上気道開大筋と呼ばれる筋肉の働きを活性化する作用があります。
そのため、更年期や閉経後にはプロゲステロンの分泌量が低下し、気道が狭窄しやすくなるため、注意が必要です。
また、更年期や閉経後は女性ホルモンと関係なく、基礎代謝の低下によって太りやすくなる時期でもあるため、頚部への脂肪沈着によっていびきが生じる可能性も高まります。
妊娠
妊娠も女性のいびきの原因の1つです。
妊娠中はどうしても体重が増加し、皮下脂肪も蓄積しやすくなってしまうため、より気道が狭窄しやすくなってしまいます。
また、出産前後は女性ホルモンの変動も激しく、先述したような女性ホルモンの影響も相まっていびきをかきやすくなります。
多くの場合、妊娠に伴ういびきは妊娠終了後に改善が見込めますが、妊娠後も肥満が継続してしまうといびきが継続してしまう可能性もあるため、注意が必要です。

いびきの対策・治療法
いびきは周囲の家族やパートナーの睡眠を阻害し、本人の睡眠の質の低下や健康にも悪影響を与えるため、早期対策が必要です。
下記では、軽度〜中等度向けの対策と、重度〜睡眠時無呼吸症候群の方向けの医療機関での治療法をそれぞれ紹介します。
自宅でできる対策|軽度〜中程度向け

いびきが軽度〜中等度の場合、まずは自宅でできる対策を行いましょう。多くの場合は自身でのセルフケアで十分改善が見込めます。
下記では、自宅で実践可能な対策方法を5つ紹介します。
ダイエット
自宅でできるいびき対策として、まずはダイエットを行いましょう。
いびきの最大の原因は肥満であり、肥満によって頸部に脂肪が沈着すれば気道が狭窄し、いびきをもたらします。
また、肥満は高血圧や糖尿病・高脂血症などの生活習慣病の発症予防にもなるため、いびき患者にとってまず実践すべき対策です。
特に、肥満度を示すBMI(体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m))といびきの発症は正の相関関係にあり、BMIが25kg/m2〜28kg/m2の人の4人に1人はいびきを発症することが知られています。
食生活においては、過剰な糖質や脂質は控え、野菜や果実・タンパク質を中心とした規則正しくバランスのよい食事を意識しましょう。
十分な睡眠時間の確保や、最低でも1回30分以上の運動を週に3日以上は行うように習慣づけることも重要です。ダイエットは自宅でも簡単に実践できるため、まずはBMI25未満を目標にはじめてみると良いでしょう。
寝具の見直し
自宅でできるいびき対策として、寝具の見直しも重要です。
普段使用している寝具の形や高さが身体にフィットしていない場合、頚部が過剰に屈曲してしまい、気道が狭窄する原因となります。
高すぎる枕や柔らかすぎるマットレスの使用は、頚部と体幹部の高低差を生み出してしまい、頚部の屈曲を助長するため、使用は控えるべきです。
枕の高さは最高でも6cm程度のものがよく、程よい反発感のあるマットレスの使用を心がけましょう。
なお、寝室の湿度も非常に重要であり、乾燥すると気道の炎症や鼻詰まりが起こりやすく、やはりいびきをかきやすくなるため、これを機に湿度も見直すと良いでしょう。
こちらの記事では、いびき対策におすすめ枕を紹介していますので、ぜひ参考にされてください。
生活習慣の見直し
自宅でできるいびき対策として、生活習慣の見直しが挙げられます。
先述したように、いびきは気道の炎症によって生じやすくなるため、気道の炎症をもたらすような飲酒・喫煙は、特に就寝直前は控えるべきです。
また、アルコールに限らず過剰な塩分摂取や多量の飲水も上気道の浮腫を招き、いびきの原因となるため、控えるべきです。
生活習慣の見直しは肥満の予防にもなるため、上気道の狭窄にとって非常に有効な対策となります。
横向きで寝る
横向きで寝るように意識するのも、自宅でできるいびき対策の1つです。
仰向けでの睡眠は舌根が後方に落ち込みやすくなり、いびきを最も生じやすくさせる体位であるため控えるべきです。
一方で、うつ伏せでの睡眠は非常に寝苦しく、多くの方にとって睡眠の質の低下につながるため、勧めません。
横向きでの睡眠は比較的多くの方でも実践可能で、大きめのクッションなどを左右片側に設置すれば仰向けになることを防止することもできます。
これも簡単に実践できるため、一度試してみると良いでしょう。
市販のアイテムを活用する
自宅でできるいびき対策として、市販のアイテムの活用もおすすめです。
人は本来鼻呼吸する生き物ですが、鼻詰まりなどを認める場合は口呼吸となり、口呼吸の場合は吸気時に顎が下方に移動し、その分舌が後方に落ち込みやすくなるため、いびきをかきやすくなります。
そこで、市販で売っている鼻腔拡張テープや口閉じテープ、ノーズクリップやマウスピースなどを活用することでいびきを解消できる可能性があります。
どれも薬局などで簡単に購入できますが、鼻詰まりが原因での口閉じテープの使用は呼吸困難になってしまうため、使用は控えましょう。
医療機関での治療法|中等度〜重度・睡眠時無呼吸症候群向け

いびきが中等度〜重度の場合や上記のようなセルフケアでは改善を認めない場合、医療機関での専門的な治療が必要となります。
特に、いびきによって睡眠中に取り込める酸素量が減少し、睡眠や身体に様々な症状をきたす疾患、睡眠時無呼吸症候群を発症している場合は早急に治療が必要です。
下記では、医療機関での治療法を3つ紹介します。
OA療法
OA療法も、いびきに対する効果的な治療法の1つです。
OA療法とは、Oral Applianceの略で、いわゆるマウスピースを睡眠中に装着し、いびきを軽減させる治療法です。
自身の下顎の形に合わせて特別に作製したマウスピースを装着することで、下顎を前方に固定した状態で睡眠できるため、いわゆる「アイーン」の状態となり、舌が後方に落ち込む状態を予防することができます。
後述するCPAP療法と比較して装着の不快感や持ち運びの利便性において優位ですが、奏功率は低く、受け口が悪化する可能性があります。
保険適応で作製するためには、睡眠時無呼吸症候群の診断を受ける必要があり、医療機関での精密な検査が必要です。
CPAP療法
いびき治療としてCPAP療法はエビデンスレベルAであり、最も効果的な治療法といえます。
CPAP療法とは、Continuous Positive Airway Pressureの略で、日本語で持続陽圧呼吸療法のことです。
特殊な機器を装着して睡眠し、睡眠中に持続的に空気を加圧して気道に送り込むことで、気道の狭窄や閉塞を予防することができます。
こちらの治療法も、医療機関で精密な検査を行い、睡眠時無呼吸症候群の診断を受けることで保険適応されるため、まずは医療機関に受診しましょう。
外科的手術
いびき治療の1つに、外科的手術が挙げられます。
どんなにダイエットしたり、睡眠中の体位を工夫しても、先天的な解剖学的理由によって気道が狭い場合は、改善困難です。
そこで、このような場合は外科的手術によって気道の拡張を行う必要があり、具体的には口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)、下鼻甲介の切除、上下顎骨前方移動術などの手術が実施されます。
一方で、これらの手術には術後の咽頭部違和感・嚥下障害・味覚異常などの合併症を伴う可能性があり、注意が必要です。
いずれにせよ、適応の有無においては外科医の判断が求められるため、医療機関を受診しましょう。
舌下神経電気刺激療法
いびき治療として、近年新たに保険適応が認められた治療法が舌下神経電気刺激療法です。
舌下神経電気刺激療法とは、その名の通り電気刺激によって舌の運動を支配する舌下神経を刺激し、舌を前方に出すことで舌後方の気道を広げる治療法です。
事前に手術で鎖骨下に埋め込んだパルスジェネレータが、睡眠中の呼吸に同期して舌下神経を刺激することでいびきを改善させます。
治療の適応条件として、BMI30未満、CPAP療法困難、扁桃肥大などの外科的治療対象疾患を認めないことなどが挙げられます。
危険ないびきの特徴とは?

いびきの主な原因は肥満や小顎、アデノイドなどの解剖学的理由がほとんどですが、中には危険な病気によっていびきが生じることもあります。
放置すれば命に関わる可能性もあるため、普段のいびきと違ういびきをかいている場合は、早急に医療機関を受診すべきです。
下記では、危険ないびきの特徴を3つ紹介します。
無呼吸・低呼吸を認める
無呼吸・低呼吸を伴ういびきには注意が必要です。
いびきをもたらす疾患の1つに睡眠時無呼吸症候群という疾患があり、気道の狭窄が重症化した結果、睡眠中の呼吸量が減少する、もしくは完全に停止する病気です。
具体的には、睡眠中に10秒以上の無呼吸や低呼吸(呼吸が弱くなる)が、1時間に5回以上繰り返される状態を指します。
睡眠時無呼吸症候群になると睡眠中に脳に十分な酸素が供給されず、脳が十分に疲労回復することができなくなります。
また、息苦しさから中途覚醒(夜中に起きてしまうこと)が増加することが知られており、睡眠の質が著しく低下するため、日中に過度の眠気に襲われる恐れもあり、注意が必要です。
不規則ないびき
不規則ないびきの場合、脳血管障害を発症している可能性があるため、注意が必要です。
脳血管障害(脳梗塞や脳出血・くも膜下出血など)によって、脳内の呼吸中枢が障害されると正常な呼吸が得られなくなります。
この場合、小さい呼吸から徐々に呼吸量が増加し、大きい呼吸に変化し、ピークを迎えるとそこから徐々に呼吸が小さくなっていき、10〜20秒程度の呼吸停止となり、その後また小さい呼吸から繰り返します。
このような不規則な呼吸様式をチェーン・ストークス呼吸と呼び、ただ寝ているだけかと思いきや、脳血管障害による意識障害の可能性もあり、脳血管障害を発症している可能性があるため、注意が必要です。
普段よりも大きい音のいびき
普段よりも音の大きいいびきをしている場合も、危険ないびきのサインです。
普段よりも音が大きい=何らかの原因で気道の狭窄が悪化していることを意味し、場合によっては危険な病気が背景に隠れている可能性があります。
飲酒や喫煙による気道の浮腫がよくある事例ですが、特に注意すべきは脳梗塞をはじめとする脳血管障害です。脳血管障害によって舌の運動神経である舌下神経が障害されると、舌が麻痺して弛緩してしまうため、舌根が後方に沈下しやすくなってしまいます。
その結果、気道が狭窄していつもより大きないびきをかくようになってしまうため、飲酒や喫煙など行なっていないにも関わらず普段よりいびきをかいているケースでは注意が必要です。

いびきの放置によるリスクとは?

いびきはつい軽視されがちな症状ですが、先述したように実は背景に命の危険性を伴う疾患が隠れている可能性があります。
また、いびきを放置するとさまざまな健康被害を及ぼすため、早急に対処・改善すべき症状です。
下記では、いびきを放置することで生じる健康リスクを3つ紹介します。
睡眠の質の低下
いびきを放置すれば睡眠の質の低下を招きます。
先述したように、いびきをかくような気道の狭窄した状態だと、睡眠中に取り込める酸素量が低下し、脳は十分な休息を得ることができません。
また、寝苦しさで中途覚醒が増加するため、睡眠時間は確保しても睡眠の質が著しく低下し、日中の強い眠気の原因となります。
症状が遷延すれば仕事や学業にも支障が出たり、交通事故や転倒・転落の原因にもなるため、注意が必要です。
生活習慣病のリスク増加
いびきを放置すると生活習慣病のリスクが増加することが知られています。
いびきをかいて睡眠中に取り込める酸素量が低下すると、身体は持続的な低酸素状態に陥り、強いストレスにさらされます。
すると、交感神経が活性化してしまい、心拍数の増加や血圧の上昇、血糖値の上昇など、生理的な変化が引き起こされ、長期的には高血圧・糖尿病・高脂血症の発症リスクが増大するため、注意が必要です。
実際に、Wisconsin Sleep Cohort Studyでは、睡眠時無呼吸症候群の患者で高血圧の発症リスクが2.9倍、カナダのコホート研究からは、糖尿病の発症リスクが1.3倍であったと報告されています。(参考文献:一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会)
また、これらの疾患は肥満を招き、さらに脂肪による気道狭窄が進行すれば負のスパイラルに陥るため、早期対策が肝要です。
脳血管障害や心疾患のリスク増加
いびきを放置すると、脳血管障害や心疾患のリスクが増加することが知られています。
先述したように、いびきに伴う長期的な交感神経の活性化は生活習慣病の発症を招き、それに伴い血管壁にも負担がかかることで動脈硬化が進展します。
動脈硬化によって血管が脆く・固くなることで脳出血や脳梗塞を発症するリスクが増加してしまうため、注意が必要です。
実際に、1,022例を対象にした約3年間の追跡研究では、睡眠時無呼吸症候群の重症例では脳卒中の発症や死亡のリスクが最大3.3倍になると報告しています。(参考文献:New England Journal of Medicine)
同様に、心臓にも負担をかけ、心筋梗塞や心房細動などの不整脈疾患の発症率を増加させることが知られており、早期対策が肝要な疾患です。